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INTERVIEWみんなに知ってほしい。2020年、性犯罪刑法のいま

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会社員として働きながらフェミニズム運動をしている絵描きライターの阿部あやなさんが、イベントレポートやインタビューをイラストと文章でお届けするコラム、2回目です。
前回はこちら→「フェミニストの人生は茨の道」 私たちが運動するために必要なものとは?

みんなに知ってほしい。2020年、性犯罪刑法のいまNOISIEノイジー阿部あやな


上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元青山学院大学法科大学院実務家教員。毎日新聞記者を経て、2007年に弁護士登録。性暴力被害などに関する刑事事件、民事事件を中心に活動している。性犯罪刑法改正の検討会メンバー。

■2017年の刑法改正。性犯罪裁判への影響は?

NOISIEノイジー阿部あやな

2017年、110年ぶりに性犯罪に関する刑法が改正されました。
大きく変わったのは、こちらの4つのポイント。改正後は、裁判にどんな影響が出ていますか?

改正前後2017刑法性犯罪NOISIEノイジー

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

「監護者による子どもへの性的虐待の処罰」については新しい法律なので、これまで「暴行・脅迫がない」と立件されなかった事案が有罪になるケースは結構出てきていると思います。
それから、親告罪から非親告罪になったことも大きいですね。もともと親告罪とされていたのは、被害者のプライバシー保護、事件化を望まない被害者の保護が目的でした。刑事事件になるということは、つまり被害者が警察に行って被害届も出しているということなんですが、親告罪の場合、それとは別に告訴状が必要だったんです。告訴状自体は、警察が持っている雛形にサインをするというもので、さほど難しい書類ではないんですけど。
ただ、告訴しないと事件にならないので、加害者側からのプレッシャーが激しかったんですよ。

NOISIEノイジー阿部あやな

これまでは、事件にさせないために加害者が告訴を邪魔していたんですか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

邪魔というか、加害者からすると、必死なんでしょうけど。
結構なお金を積んで「示談してくれ」と言ってきたりですね。悪質な弁護人だと「裁判になると顔も名前もバレて、傍聴席に晒されて、ろくなことにならないよ」などと脅して、告訴させないなんてケースもありました。

また、自分が告訴したから事件になったということになると、加害者からの逆恨みを怖がる被害者は少なくありません。「被害を訴えれば、警察が捜査して、検察が起訴して、裁判になって犯人を刑務所に入れてくれる」と思っていたのに、実際は告訴しないと警察も検察も動かない。「まるで私の方が悪い人みたいだ」と感じてしまう被害者もいました。

改正以降の被害者に「以前は告訴状というものがあってね」と話すと「なんでそんなものがあったんですか?」って驚かれます。起訴するまでの被害者の心的負担が減ったのは大きな変化でしたね。なお非親告罪となった今でも被害者が望まない場合には、起訴されません。

■積み残された課題。注目される「暴行・脅迫要件」

NOISIEノイジー阿部あやな

刑法改正のニュースでは、積み残しとなった課題も注目されました。これらが実現しなかったのはなぜなんでしょうか?

〇 暴行・脅迫要件をなくし、同意なき性行為を広く処罰対象とすること
〇 未成年者の性的同意年齢(日本では13歳とされる)を引き上げること
〇 地位や関係性を利用した性行為に対する処罰を拡大すること
〇 性犯罪に関する公訴時効を撤廃または停止すること
〇 同意なき性行為を適切に処罰すること、セクハラを犯罪とすること
上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

前回は110年ぶりの改正ということで、課題が山積みで議論しきれない部分が多かったんです。社会がついてこられないのに強引に変えることはできないので、法的安定性の観点から見送られたことも多々あります。

ただ「この改正で終わりにしたくない」という被害者側の方々からの声がかなり強かったんです。それで、3年を目処として、さらなる改正が必要かどうか検討しようという付帯決議が入りました。
でも、付帯決議では「3年後に見直しをするかどうか検討する」というものだったので、見直しをしない可能性もあったわけなんですよね。
だから「とにかく見直しをするための議論に持っていかねば」と、さまざまな団体がロビイングや署名活動などを継続して行なってきました。

改正のあった2017年は、アメリカで#MeToo ムーブメントが始まった年ですよね。
日本では、伊藤詩織さんが性被害を訴えて記者会見した年でもあります。
そういった動きも国内の運動を活発化させた要因でした。

NOISIEノイジー阿部あやな

さらに、刑法見直しに向けた活動を加速させたのは、2019年春に続いた性犯罪裁判の無罪判決でしたね。
これをきっかけに、フラワーデモが始まって全国に拡がりました。

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

あの無罪判決については、私も判決文を読んで、事実認定と評価が明らかにおかしかったので驚きました。出てはいけない判決だったと思います。
控訴審で有罪になった件もありますが、本来は一審で認められて当然のものでした。
そういう意味で「2020年はなんとしても3年前よりもっと声をあげないといけない」という被害者側の思いが強まったことは間違いないですね。

NOISIEノイジー阿部あやな

当時ニュースで見て、なんで被害の深刻さが司法の場で正しく判断されないんだろうと思っていました。
性犯罪事件において、立証が難しいとされるのはどういうことが挙げられるんですか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

性犯罪は、密室で二人きりで行われることがほとんどなので、客観的証拠がないことが多いのです。争点になるのは、やはり合意の有無ですね。
あとは、暴行・脅迫があったかどうか。反抗を著しく困難にするほどの暴行や脅迫があったのであれば合意はない、とみなされることが多いです。

NOISIEノイジー阿部あやな

暴行や脅迫があったことを証明するために必要なものって何なんですか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

それはケースバイケースですね。暴行・脅迫と言っても、文字通り殴った蹴ったとか、「殺すぞ」と脅されたとか、そういうものだけじゃないんですよ。
被害者と被告人の関係性や体格差、事件が起こった時間帯など、あらゆる条件を総合的に見て、構成要件に当たるかどうかを検察(被害者)側が立証しないといけないんです。

NOISIEノイジー阿部あやな

まさに、今回の改正見直しで注目されているのがこの「暴行・脅迫要件の撤廃」ですよね。2017年にも議論されていると思うのですが、前回は緩和されることもなかったんでしょうか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

緩和はされていないですね。
でも2017年以降、被害者の心情が裁判官にだいぶ理解されてきたとは感じます。付帯決議の中に、裁判官や検察官が被害者心理について研修を行うことも含まれていたので、裁判所側も知見を深めています。
たとえば、急な出来事で身体が硬直して抵抗できないとか、なかったことにしたいから事件後に迎合的なメールを送ってしまうとかはあり得ることです。
被害者支援をしたことがある人なら、常識なんですよね。そのあたりの理解が裁判所側に深まってきたと感じています。

■加害者に名前を知られる問題。起訴状の匿名化について

NOISIEノイジー阿部あやな

今回の見直し検討で、ほかに注目すべき課題点はありますか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

課題は山ほどあります。
たとえば、性的自由を奪われる罪について、刑法では「強制性交等罪」と「強制わいせつ罪」しかありません。範囲が狭すぎるから、もっと網を広げるにはどうしたらいいのかという議論になるかと予想しています。

それから、刑法だけじゃなく刑事訴訟法も連動して変えるべきだと思います。
付帯決議の中に、起訴状の匿名化についての問題が入っています。起訴状には被害者の名前が書かれるんですが、起訴状は必ず被告人に送達されるので、犯行時に被害者の名前を知らなかった場合でも、名前を知らせることになってしまうんですよ。
証拠が揃っていても、名前を知られるのが怖いということで、起訴を諦めてしまう被害者も少なくないんです。

NOISIEノイジー阿部あやな

加害者が知人じゃない場合、名前を知られたくないというのは被害者心理として当たり前のことですよね。

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

そう、これが結構大きな問題になっています。起訴状に被害者の名前を書かなきゃいけないという条文はないんですよ。
でも、起訴状には被害者の名前も含め、日時や場所、犯行時の詳細を記載しないと、「事件が特定されない」と判断されることがあります。事件を特定しないと何が問題かというと、被告人の防御権に支障をきたすというわけです。

NOISIEノイジー阿部あやな

誰がいつどこでどんなことをしたのかという詳細が起訴状に書いていないと被告人が反論できない、ということですか。

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

そうです。でも今の時代、SNSを使っている人は多いし、ネットで名前を調べたら居住エリアがわかってしまう場合もありますよね。
だからといって被害者にSNSをやめろというのもおかしな話です。この起訴状の匿名化については付帯決議でも触れられていて、裁判所と弁護士会と検察庁で議論を続けています。
今回の検討会で議論されるのかは分かりませんが、そろそろ何らかの答えが出ると期待しています。

性犯罪刑法改正NOISIEノイジー阿部あやな

■見直しに向けて私たち市民にできること

NOISIEノイジー阿部あやな

今年の3月には、12の市民団体が「刑法改正市民プロジェクト」の署名を法務大臣に提出。そして4月、とうとう刑法改正の検討会が発足しました。17名のメンバーに上谷さんも入っていてうれしかったです! 
このメンバーはどのように決まるものなんですか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

ありがとうございます。メンバー構成については、おそらく法務大臣の意向がけっこう反映されているんじゃないかなと思います。

こういった検討会って学者の方が多い傾向なんです。法律だし、論理的に整えることは大事ですよね。
でもやっぱり現場の声が少なすぎる、とずっと感じていました。もちろん学者でも現場のことをよくご存じの方もいますが、被害当事者や被害者支援に携わる人を検討会に入れるのが重要ですよね。
今回は一般社団法人Springの山本潤さん、被害者支援を続けてこられた精神科医の小西聖子さんなどが入られてよかったです。

NOISIEノイジー阿部あやな

被害当事者、支援者が入ったことによって、どんな議論が活発化すると予想していますか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

どの論点が、というわけではないのですが、実態に即した議論ができると思いますね。
議論のための議論じゃなくて、現実的な観点から不都合な部分を指摘して、それを法律に落とし込んでいく。実践的な話ができることを期待しています。

NOISIEノイジー阿部あやな

すでに検討会が発足していますが、いま私たち一般市民にできることは何かあるんでしょうか?

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

問題意識をもって情報発信を続けることかなと思います。
1年続いたフラワーデモも運営の方々のものすごい努力がありました。
社会的な関心事として、盛り上げていくことは大事です。

なぜ性犯罪の刑法がなかなか変わらなかったかっていうと、やはり無関心層が多いからだと思います。その人たちに関心を持ってもらうためには発信を継続すること。
たとえばSNSに投稿したり、イベントを開催したり、キャンペーンを行なったりですね。

それから、性教育も重要だと思います。本来であれば国家事業としてやらなきゃいけないことですけど。おそらくこの検討会でも性教育の話は出てくると思いますが、コロナ禍で学校現場もそこまで手が回らないのが現状ですよね……。
性教育の講演などで学校や施設を回っているNPO団体なども増えているし、わかりやすいWebサイトを作っている人もいます。そういった運動もすごく重要だと思います。

NOISIEノイジー阿部あやな

今はどうしてもコロナウイルス関連の話題でもちきりで、ほかのニュースが埋もれがちですよね。
だからこそ、社会の関心を途絶えさせないために情報発信を続けていかないといけないと思います。

上谷さくらさん性犯罪刑法改正NOISIEノイジー

今は、個人も発信ができる時代ですから。
私もそうでしたが、今までは「そんなもんか、世の中は」って諦めていた人が多いと思うんですよ。でも、そうじゃなくて「行動すれば動くんだ」ということが、ここ数年で実感できていますよね。
みなさんの存在はすごく大きいので、引き続き一緒に頑張っていきましょう!

まとめ

2017年の刑法改正も、今年の見直しの検討会発足も、性被害者と支援者たちの運動によって実現しました。
でもまだまだ課題はたくさん。司法の場が性犯罪被害者の声を正しく受け止められるようになってほしいです。

今、世間ではコロナウイルス関連のニュース一色ですが、中には外出自粛によるDV被害の悪化なども報じられ、性暴力の相談件数は増え続けています。
あらゆる性差別、性暴力に反対するためにも私たちは情報発信の手を止めてはいけません。性犯罪刑法の改正に関心を持つ人が増えるように、引き続き、声をあげていこうと思いました。

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阿部あやな

映画を愛する絵描きライター。本業はWEBメディアの編集者。 ちゃぶ台返し女子アクション希望のたね基金伊藤詩織さんの民事裁判を支える会​ #OpentheBlackBox などで活動中。 フェミニズムの可能性を信じ、間違ってないと思うことを頑張る。 Twitter:https://twitter.com/a_beayana  note:https://note.com/ayana_abe

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