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ARTICLES水谷さるころの「漫画が教えてくれるジェンダーの話」ー世界一周ホモのたびDXー

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こんにちは。さるころです。
事実婚しながら男児を育てているイラストレーター・マンガ家です。
離婚経験からの再婚(事実婚)を経て、自分自身のジェンダー観を洗い直す生活をしております。
マンガや本を読んで「これは…!」と思ったジェンダーの話を書かせていただきたいと思います。

最初が「世界一周ホモのたび DX」です! 
こちらの本は作者のサムソン高橋さんが世界中のハッテン場をめぐるゲイカルチャー&旅マンガです。
まず「世界一周ホモのたび」があり、こちらは続編、2巻的な扱いの本です。
私は仕事で世界一周を2回して(2周?)いて、その体験をマンガにしているので、「世界一周」マンガとしてシンパシーを感じつつ拝読させていただきました。

いやー、これがすごく面白い。
旅マンガとしての醍醐味、その土地ならでは食や宿泊などの情報もしっかりありつつ、世界各国のゲイカルチャーについて描かれています。

私は元々ゲイカルチャーに詳しいわけではないのですが、ちゃんとその土地の価値観や宗教観を踏まえてわかりやすく描かれています。
サムソン高橋さんの体を張った体験談は自虐を交えつつ、男性同士の中の価値観や評価軸などが面白おかしく書かれています。
とっても読みやすくて、あー、面白かった。と読み終えたあとに…振り返ると印象に残ったエピソードがいくつかありました。

まずすごいな…と思ったのがフィレンツェでのエピソード。
サムソンさんがゲイサウナで出会った「ガテン系のモテ筋親父」に避妊具ナシの性交渉を迫られて、取っ組み合いになります。
「文句ばっかいってんじゃねえブスのアジア人が」「うるせえてめえに性病うつされてたまっか」というケンカ。

はーーーーーーーー…………。
「生でするしない」で…取っ組み合いができるんだ! という衝撃。

なぜ衝撃だったかというと、もし自分だったらできないことだからです。
私は異性愛者の女性なので性交渉する相手は男性となります。
男性相手に女性である自分だったら「生でやるやらない」でここまでやりあえない…! 
ここで「フィジカルが違うと見える世界が違うんだな」と思ってしまいました。
私はフィジカルに差がある相手とは揉めたら力では勝てないので「近距離での接触」する前に、信頼関係を構築する必要があります。
簡単にいえば相手とデートするとか、話をたくさんするとか。
しかし信頼関係ができたと思った相手でも、いざ性行為をしようとなったときに、こちらがNOなことを口で言っても伝わらなかったら…? 取っ組み合ってもNOとは言えない気がします。

ちなみにこのエピソード、さらっと描かれています。もちろんサムソンさんだって相手と揉めて傷ついたとは思いますし、「ロクなめにあわなかった」というネガティブなエピソードなんですが、いざというときは男同士は拳で決着つけるの…! と、じわじわと衝撃を受けました。

それと逆なのがシリアでのエピソード。
イスラム教では同性愛は禁忌なのですが婚前交渉も禁忌のために、外国人が狙われやすいという話。
それが、女でも男でもいいらしいんですね。女性は黒いベールに覆われていて、街を歩いてる人も少ない。
同性愛というより「手っ取り早く性処理」するなら相手は男でもかまわないという価値観があるとか。
サムソンさんはそれを恩恵として大いに楽しむのだけど、シリアで出会った日本人大学生が「あちこちで男に狙われましたよ〜」と辟易しながら言います。

日本人の若者である彼は頑張ってヒゲをはやしていても、現地の男性に比べれば華奢で、男に狙われまくって大変だったという話。
同じ男同士だとしても、サムソンさんは相手と取っ組み合えたけど、華奢な大学生はそれはできなかった。
これは結構わかりやすく「望まない性的な搾取」「性被害」であって、世界中どこでも男性⇒女性で多く行われていることです。

この両者の差を見て、男性の中でも「力の差」によって、「性被害」は起こるし、男性だからって強く抵抗できるわけでもないんだと思いました。
そしてその「力の差」は男性と女性の間ではわかりやすく存在しているのです。
「性被害」っていうのは、フィジカルでも社会的地位でも「力の差」があって起こるものなんだよな…。改めて再確認させられてしまいました。

ちなみにこのマンガはうちの夫も好きなのですが、夫に「男性はこれを読んでどういう感想を持つの?」と聞いたら「自分はゲイじゃないから、全然別の世界のこととして面白く読んでいる」と言われました。
自分は「体格差」とか「性的同意とは」とか「性被害」とか「男性性」とかそういう視点でザザザと心がさざ波を立てるところがあって、全然関係ないはずのゲイカルチャーのなかにも当事者性を見いだしちゃうのですが、実はこの感想の差がジェンダーの差を表しているんじゃないかしら…と、家庭の中のジェンダー差も感じてしまいました。

ちなみにこのDXの前巻である「世界一周ホモのたび」では、サムソンさんが津波にのみ込まれたり、列車事故に遭遇したりする衝撃的なエピソードが書かれています。
どんな酷い目にあっても全部ネタに昇華しているサムソンさんの強さが、このマンガの醍醐味だと思います。
2冊とも旅エッセイとして非常に刺激的で面白いので、オススメです。

原作 サムソン高橋さん、漫画 熊田プウ助さんによる大人気トラベルエッセイ「世界一周ホモのたび」シリーズは「無印」「DX」「祭」「狂」「結」の全5冊。
「世界一周ホモのたびシリーズ」ぶんか社WEBサイトはこちら
Googleブックスの試し読みはコチラからどうぞ→「世界一周ホモのたび
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水谷さるころ

1976年千葉県生まれ。女子美術短期大学卒業。1999年マンガ家デビュー。2008年、CS旅チャンネルの番組「行くぞ! 30日間世界一周」に出演、その道中の顛末を『30日間世界一周!(全3巻)』としてマンガ化。2009年に引き続き「行くぞ! 30日間世界一周 2周目!」に出演。その旅は『35日間世界一周!!(全5巻)』として刊行された。30歳で初婚、33歳で離婚、36歳で再婚(事実婚)し38歳で出産。現在は1児の母。2016年に自身の結婚にまつわる体験を『結婚さえできればいいと思っていたけど』として出版。以降『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』『どんどん仲良くなる夫婦は、家事をうまく分担している』など結婚にまつわる著作がある。自著では装丁も全て手がけている。趣味の空手は弐段。古墳好き。

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